緊急発進機にミサイル装備
防衛庁は18日から、ソ連軍用機などの領空侵犯に対する処置のために、警戒待機に就く航空自衛隊の
要撃戦闘機に空対空ミサイルを搭載した。同庁は「有事即応体制強化、要撃機の対処能力向上施策の一
環であり、後方支援体制も整った」とミサイル積載の理由を説明しているが、防御力増強の具体的な動きと
して論議を呼びそうだ。
航空自衛隊へのミサイル積載については、防衛庁、航空自衛隊でかねてから検討してきた結果を踏まえ
て大村防衛長官がこのほど決裁、18日からF4EJ、F104J、F1の要撃機320機にミサイルを積載する態勢が
スタートした。
航空自衛隊は日本領空に接近する軍用機に対して、自衛隊法84条に基づき領空侵犯を防ぐため緊急発
進(スクランブル)をかけ、警戒監視活動に当たってきた。その際、43年から46年にかけて機関砲未整備の
ためF104J機にミサイルを積載したのを除いて機関砲を装備するのが通例となっていた。
しかし、防衛庁内では、もともと「有事即応体制強化のためミサイルを積むべきだ」との積極論があり、有
事立法問題が論議された53年8月17日の参院内閣委員会で、当時の伊藤防衛局長は「現状において機関
砲を積んでいるが、防衛庁長官の承認を得たうえで、航空総隊司令官の責任で必要な武器を持たせること
になろう」と答弁。また今年6月27日のソ連爆撃機TU16バジャーの新潟・佐渡沖墜落事故の際も防衛庁首
脳は「相手機から攻撃を受けるかもしれないのに、ミサイルを積まないのはおかしい」と指摘していた。
航空自衛隊が現在保有している空対空ミサイルはサイドワインダー、ファルコン、スパローの三種類であ
る。
サイドワインダーは速度マッハ3.5、射程5キロで要撃機全機種に2〜4発ずつ積載可能、またファルコン
は速度マッハ4.0、射程9キロ、スパローはマッハ2.5、射程22キロでそれぞれF4EJに2〜4発ずつ積載可能
となっている。
航空自衛隊の要撃機は千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原、那覇の7基地に配備されているが、防
衛庁は「どの要撃機にどのミサイルを何発積むかは公表すべき事項ではない」とミサイル積載の具体的な
態様は明らかにしていない。
自制破る政治的判断
〜解説〜
防衛庁が懸案となっていた要撃戦闘機へのミサイル搭載に踏み切ったことは、国際情勢の緊迫、米国など
からの防衛力増強要請、防衛問題に対する関心の高まりを背景に「国際的な批判にも耐え得る防衛力増
強」を目指す姿勢を鮮明にしたといえる。
もともと各国の場合、有事の防空任務、平時の領空侵犯警戒任務につく戦闘機がミサイルを積むのは当然
のこととなっている。航空自衛隊機のミサイル積載についても「法的な問題はまったくない」というのが従来
からの政府の見解だった。
それにもかかわらず、これまではごく一部の例外を除いてミサイルを積載しなかったのは、後方支援体制の
問題などもあるものの「自衛隊のこれまでの歴史的経過から自制してきた」(防衛庁首脳)という面が強い。
今回のミサイル積載決定について塩田防衛庁防衛局長は「今の時期に実施する特別な目的はない」とし
て、
@(相手機が攻撃してきた)万一の場合を考えると、有事即応体制の強化になる。
A外国の場合、みなミサイルを積んでおり、自衛隊も通常の武器の形にしておこうということだ。
・・・と説明している。
しかし、昭和53年8月17日の参院内閣委員会で、当時の伊藤防衛局長が、ミサイル積載検討の必要性を
認めながらも「過去20数年間、日本は近隣諸国と友好関係をずっと保っていた。こういう状況では機関砲で
対処するという方針できている」と答弁していたのに比較して、防衛力増強への高姿勢ぶりは明らかといえ
よう。塩田防衛局長自身、「これまで機関砲積載で特別な支障があったわけではない」と、ミサイル積載が政
治的な判断であることを認めた形だ。
昨年3月6日の衆院予算委員会で、防衛庁は「領空侵犯機への武器使用は、自衛隊法84条(対領空侵犯
処置)に基づく正当な業務行為として認められる」との見解を明らかにした。武器使用の中に当然ミサイルも
含まれるとしている。
しかし、自衛隊法84条は平時の警察的行動としての対領空侵犯処置を定めたものであり、有事の防衛任
務、自衛処置を定めたものではない。そうした対領空侵犯処置のため警戒待機に就く要撃機になぜ、ミサイ
ル積載が必要なのか。「有事即応態勢強化」「外国機は積載している」というだけでは、十分説得力のある
説明とはいえず「衆参両院選の自民圧勝をテコに、なし崩し的に防衛力を推進しようとするもの」と非難され
てもやむを得ない面があるのではないか。
引用:昭和55年(1980年)8月19日火曜日 北国新聞 朝刊
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